現代美術家 中西 學さん インタビュー

1983年に作家デビューし、生命力に溢れた巨大な立体作品などで注目を集めてきた現代美術家、中西 學さん。近年は、時間・空間を意識した平面作品の〈Vortex(渦流)〉シリーズなどに取り組んでいます。中西さんの作品づくりに欠かせないのが、高級用紙「PHO」です。現代アート作家がどのようにPHOを活用しているのか、語っていただきました。

学生時代から、強くて風合いの滑らかなPHOを愛用

中西 學さんは1980年代に現代美術家としての活動をスタート。当時全盛だったロック音楽と、世界の現代美術の潮流「ニュー・ペインティング」との同時代性を強く意識した巨大なオブジェ作品〈THE ROCKIN' BAND〉を発表し、「関西ニュー・ウェイブ」と称される若手アーティストの一人として注目を集めました。以来、立体・平面を問わず多様な作品を世に送り出し、2018年には創作活動35周年を迎えています。そんな中西さんが大阪芸術大学の学生時代から一貫して愛用してきた紙が、富士フイルムの高級用紙「PHO」です。
「大学では版画専攻で、主にシルクスクリーン(孔版の一種)作品の制作に取り組んでいました。PHOを使い始めたのは、先生や先輩からPHOの紙としての腰の強さ、風合いの滑らかさを勧められたのがきっかけです。それ以来、『ケント紙といえばPHO』という認識を持っています。ゼミの仲間と一緒に100枚単位で買って、シェアして使っていました。大きなクエスチョンマークをPHOにプリントし、それを数多く配置し、立体的なインスタレーション作品を制作したこともありました」と中西さんは振り返ります。学生時代から現在に至るまで、中西さんの創作活動の傍らには常にPHOがありました。

水を含んでも伸縮や型崩れのないタフさ。
PHOでなければ渦のうねりが出せない

中西さんは初期の作品では、ロック音楽や都会の騒音、自然現象など、音をテーマに創作していました。1990年代以降は、宇宙や生命、時間・空間などをテーマにした作品を展開しています。2019年4月に岡山県の奈義町現代美術館で開催した個展『中西學展―渦流のふるまい―』で発表した〈Vortex(渦流)〉シリーズがその最新作です。宇宙望遠鏡が捉えた渦巻銀河のような模様が、生命の根源的な形を感じさせる壮大な作品群となっています。

このVortexシリーズの基底材も、やはりPHOを使っています。創作過程としてはまず、PHOに黒のアクリルガッシュとメディウム(絵の具に混ぜてさまざまな効果を出すための媒体)で、ベースの黒を描きます。これが宇宙空間の黒になります。「最初から黒の紙を使えばいいと思うかもしれませんが、それはしません。なぜなら黒い紙では宇宙の奥深さを表現できないからです。また、黒地の上に渦巻き模様を描いていく際、既成の紙ではうまく絵の具が滑りません。絵の具を滑らせるように動かすためにはどのようなベースにすればいいか、試行錯誤した結果、PHOとアクリルガッシュ、メディウムの組み合わせに至りました」

こうしてできた黒地の上に、白などの絵の具を使って、「墨流し」の要領で模様を描いていきます。墨流しとは、水面に墨汁を垂らした際にできる模様を紙に転写する日本伝統の染色技法。水面に滴下した墨汁が風の動きなどで変化し、独特の美しい模様ができあがるというものです。中西さんはこの技法を作品づくりに応用しています。といっても水面に絵の具を浮かべるのではなく、紙の方に大量の水を含ませ、その上に絵の具を塗り、筆・刷毛で操作し、風量を変化させながら模様を描いていくという方法です。このような作業を何度も繰り返すことで、複雑な渦巻き模様を描き、ビッグバンや銀河などの世界が紙の上に広がります。「Vortexシリーズを制作している最中は、紙が常に大量の水を含んで濡れている状態になります。水が蒸発すれば霧吹きなどで水を吹きかけてまた湿らせます。そして生き物のように絵の具を動かすことで、二度とできない複雑な模様をつくっていきます。このような描き方なので、水に対してタフな紙でなければなりません。その点PHOは、水を含ませても絵の具がにじんだり、紙が伸縮したりすることがありません。他の紙を使ったこともありますが、弱い感じがして少し心もとない。PHOの表面の滑らかさと水に対する強さが、作品づくりにおいて安心感につながっています。乾燥後にも紙が反ることなどもなく、フォルムを長くキープしてくれる点も魅力です」

より大きなPHOの紙でVortexの世界観を表現してみたい

中西さんはVortexシリーズに限らず、墨流しの技法を応用した作品をつくる際には、よくPHOを利用しています。また、立体作品のプランスケッチをPHOに描いたり、重ね張りしたPHOを使って小さなオブジェを制作したりといった使い方もしています。PHOの使い勝手の良さが、中西さんの創作意欲を刺激しているようです。

今後PHOを使ってどんな作品をつくりたいかを尋ねると「大きな作品」という答えが返ってきました。「PHOの長いロール紙を目的のサイズにカットして、巨大な紙でVortexを表現してみたいですね。大きければ大きいほど挑戦意欲がわきます。また、さまざまな素材でVortexの世界観を立体化した作品にも挑戦していきます」。今後もPHOは、中西さんの作品づくりを支えていくことでしょう。

奈義町現代美術館での個展『中西學展―渦流のふるまい―』の様子
(左:本人撮影、右:奈義町現代美術館提供)

ご紹介

現代美術家・博士(芸術)
中西 學さん
1982年大阪芸術大学卒業後に創作活動を開始。1985年の兵庫県立近代美術館(現・兵庫県立美術館)「アート・ナウ」をはじめ、日本各地のギャラリーや美術館で作品を発表し、高い評価を得る。近年は徳島県立近代美術館にて中西學「造形の世界」展開催、国立国際美術館「ニュー・ウェイブ 現代美術の80年代」出品の他、伊丹市立工芸センターなど各地で宇宙を題材にしたワークショップを実施している。

出典:マガジンGC vol.30

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